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医療M&Aにおける株式譲渡vs事業譲渡|実務上の使い分けと注意点

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M&A
M&Aメディカル編集部
中小企業庁認定M&A支援機関
📅 公開: 2026年9月3日🎯 医療経営者向け📚 12分で読了

医療機関のM&Aを検討する際、「株式譲渡」と「事業譲渡」という二つの主要なスキームが選択肢として浮上します。しかし、医療業界特有の法的規制、医療法人類型、そして税務上の複雑な論点が存在するため、一般企業のM&Aとは異なる慎重な判断が求められます。本稿では、買い手・売り手双方の視点から、それぞれのスキームが持つ特性、メリット・デメリット、そして実務上の重要な注意点を詳細に解説し、貴院にとって最適なM&A戦略を構築するための一助となることを目指します。

医療M&Aにおける株式譲渡(出資持分譲渡)の基本と特徴

医療M&Aにおける「株式譲渡」とは、具体的には医療法人の「出資持分譲渡」を指すことが一般的です。これは、出資持分のある医療法人(社団医療法人)の出資者(社員)が、その持分を第三者に譲渡することで、経営権が移転するスキームです。株式会社のクリニックであれば、文字通り株式の譲渡となります。

このスキームの最大のメリットは、法人格が継続される点にあります。これにより、医療法人の開設許可や保険医療機関指定、各種許認可、そして診療報酬上の施設基準などを原則として引き継ぐことが可能です。従業員との雇用契約や取引先との契約も、特段の手続きなく継続されることが多く、M&A後の事業運営が比較的スムーズに移行しやすいという利点があります。譲渡所得課税の観点から見ても、売り手である個人出資者には、譲渡益に対して分離課税の対象となる譲渡所得税・住民税が課され、法人税の課税は回避できるというメリットがあります。

一方で、デメリットとしては、売り手の医療法人が抱える簿外債務や偶発債務、過去の法的リスクなども、買い手が法人ごと承継するリスクがある点が挙げられます。そのため、買い手側は、財務・法務・税務・労務など多岐にわたる綿密なデューデリジェンス(買収監査)を実施し、潜在的なリスクを徹底的に洗い出すことが不可欠となります。また、出資持分なし医療法人(基金拠出型医療法人など)の場合、基金はあくまで返還請求権であり、譲渡対象の財産とはならないため、株式譲渡に準じるスキームは適用できません。この場合は実質的に事業譲渡に近い形態での検討が必要となります。

【ポイント】出資持分あり・なし医療法人の違い

  • 出資持分あり医療法人: 出資持分(財産権)が存在し、その譲渡により経営権が移転します。M&Aでは株式譲渡に準じるスキームが採用されます。
  • 出資持分なし医療法人: 出資持分が存在せず、基金は返還請求権に過ぎません。M&Aでは事業譲渡スキームが主な選択肢となり、基金の返還はM&Aの対価とは直接結びつきません。

医療M&Aにおける事業譲渡の基本と特徴

「事業譲渡」とは、医療法人が展開する事業の一部または全部、あるいは個人クリニックの事業そのものを、買い手が指定した資産(医療機器、不動産、患者情報、営業権など)と負債を選別して譲り受けるスキームです。特に個人クリニックの承継においては、この事業譲渡が唯一の選択肢となります。

事業譲渡の最大のメリットは、買い手が譲り受ける資産や負債の範囲を明確に限定できる点です。これにより、売り手の医療法人が抱える簿外債務や偶発債務、あるいは過去の紛争リスクなど、不必要なリスクを承継せずに済む可能性が高まります。また、買い手側が自身の戦略に基づいて必要な資産のみを取得できるため、事業再編や効率化を図りやすいという側面もあります。税務上、買い手は取得した資産の減価償却費を計上できるほか、譲渡対価に含まれる「のれん代」も償却資産として経費計上できる場合があります。

一方で、デメリットとしては、手続きが複雑かつ多岐にわたる点が挙げられます。事業譲渡の場合、買い手は新たに医療法上の開設許可や保険医療機関指定の申請を行う必要があります。これに伴い、診療報酬上の施設基準についても、再申請や再評価が必要となるケースが多く、一時的に診療報酬の算定に影響が出る可能性も考慮しなければなりません。また、従業員の雇用契約は一旦終了し、買い手側で改めて再雇用契約を締結するのが原則です。取引先との契約も個別に再締結が必要となり、その交渉や調整には時間と労力を要します。特に地域医療構想の進展に伴い、病床の譲渡を伴う事業譲渡では、病床機能の変更申請や医療計画との整合性が厳しく問われることもあります。

  1. 開設許可・保険医療機関指定の再申請: 買い手は新たに管轄の都道府県・厚生局に対し、開設許可と保険医療機関指定の申請を行います。
  2. 施設基準の再取得: 診療報酬上の施設基準は、開設者が変更されると再申請・再評価が必要となることが一般的です。
  3. 従業員の再雇用: 売り手との雇用契約は原則終了し、買い手と従業員の間で新たな雇用契約を締結します。
  4. 既存契約の再締結: 医薬品卸、医療機器メーカー、賃貸借契約など、主要な取引先との契約を買い手側で再締結します。
  5. 許認可の取得: 医療法以外の薬事法や介護保険法など、関連する許認可も再取得が必要な場合があります。

医療法人類型とM&Aスキーム選択の関連性

医療法人のM&Aにおいて、その法人類型はスキーム選択に大きな影響を与えます。日本の医療法人は主に「出資持分あり医療法人」と「出資持分なし医療法人」に大別され、それぞれM&Aの対象となる「財産」の考え方が異なります。

出資持分あり医療法人(旧医療法上の社団医療法人)
このタイプの医療法人では、出資者が拠出した出資額に応じて「出資持分」という財産権を有しています。M&Aにおいては、この出資持分を譲渡する、いわゆる「出資持分譲渡」が株式譲渡に準じる形で実施されます。これにより、法人格は維持され、理事長や社員の交代を通じて経営権が移転します。許認可や施設基準も原則として引き継がれるため、手続きの簡素さから売り手・買い手双方にとって魅力的な選択肢となり得ます。ただし、2007年4月以降、出資持分あり医療法人の新規設立は認められておらず、既存の医療法人のみが出資持分を有しています。

出資持分なし医療法人(基金拠出型医療法人、財団医療法人など)
出資持分なし医療法人には、出資持分という財産権が存在しません。基金拠出型医療法人の場合、拠出された基金はあくまで「返還請求権」であり、譲渡の対象にはなりません。したがって、このタイプの医療法人のM&Aでは、法人そのものを譲渡する「株式譲渡(出資持分譲渡)」のスキームは適用できません。代わりに、医療法人が運営する「事業」を買い手が譲り受ける「事業譲渡」のスキームが主な選択肢となります。この場合、買い手は新たに開設許可や保険医療機関指定の申請を行う必要があり、前述の事業譲渡のデメリットが伴います。

個人クリニック
個人が運営するクリニックは、法人格を持たないため、M&Aスキームは「事業譲渡」一択となります。開設者である医師が事業を譲渡することになり、買い手は新規に開設許可や保険医療機関指定を受けることになります。

このように、医療法人の類型によってM&Aの選択肢が大きく限定されるため、M&Aを検討する初期段階で、対象となる医療法人の類型を正確に把握することが極めて重要です。

医療法人類型とM&Aスキームの一般的な適合性
医療法人類型 M&Aの主なスキーム 法人格の継続 許認可・施設基準の承継
出資持分あり医療法人 出資持分譲渡(株式譲渡に準じる) 継続 原則承継
出資持分なし医療法人 事業譲渡 買い手は新規開設 再申請・再評価が必要
個人クリニック 事業譲渡 買い手は新規開設 再申請・再評価が必要

税務上の取り扱いと譲渡所得課税の比較

M&Aスキームの選択は、売り手・買い手双方の税負担に大きな影響を与えます。特に医療機関のM&Aでは、一般企業とは異なる非課税の取り扱いなど、専門的な知識が求められます。

株式譲渡(出資持分譲渡)の場合
売り手(個人出資者)には、譲渡益に対して「譲渡所得税」が課税されます。これは所得税と住民税を合わせて、一律約20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の分離課税が適用されるのが一般的です。法人税は発生しません。買い手側にとっては、取得した出資持分の簿価は取得原価となり、減価償却の対象とはなりません。また、医療法人の法人格が継続するため、通常の医療法人の事業には事業税が非課税となる恩恵も引き継がれます。ただし、収益事業を行っている場合は、その部分には法人事業税が課税されます。

事業譲渡の場合
売り手側が法人の場合、譲渡益は法人の「益金」として計上され、法人税、法人住民税、法人事業税の対象となります。これらの税金は、法人の利益に応じて課税され、実効税率は約30%〜35%程度となるのが一般的です。また、事業譲渡は消費税の課税対象取引となります(ただし、土地や有価証券の譲渡など非課税取引を除く)。買い手側は、取得した資産(医療機器、建物など)を減価償却できるほか、譲渡対価に含まれる「のれん代」(事業の超過収益力)も税法上の規定に基づき、5年間で償却費用として計上できる場合があります。これにより、買い手は節税効果を享受できる可能性があります。しかし、新規開設となるため、医療法人の事業税非課税の恩恵は、買い手の法人形態や事業内容によって個別に判断されることになります。

税務上の資金フローを簡潔にまとめると、以下のようになります。

売り手(法人/個人) 買い手(法人/個人) 国・地方自治体 譲渡対価 譲渡所得税
(株式譲渡) 法人税/消費税
(事業譲渡)

税務上の取り扱いは、譲渡対象の規模、売り手の法人形態、買い手の会計処理など、個別の状況によって大きく異なります。M&A実行前に、必ず税理士などの専門家と相談し、具体的な税負担をシミュレーションすることが不可欠です。

許認可・施設基準・契約承継の実務的論点

医療M&Aにおけるスキーム選択は、許認可の取得、診療報酬上の施設基準の維持、そして各種契約の承継プロセスに直接的な影響を及ぼします。

株式譲渡(出資持分譲渡)の場合
このスキームでは、医療法人の法人格が継続するため、医療法上の開設許可や保険医療機関指定は原則として引き継がれます。理事長変更届や役員変更届などの提出は必要ですが、新規の開設許可や指定の再取得は不要です。これにより、診療報酬上の施設基準も基本的に維持され、M&A後に診療報酬の算定に影響が出るリスクは低いと言えます。また、従業員との雇用契約や、医薬品卸、医療機器メーカー、賃貸借契約などの取引先との契約も、法人格が継続するため個別の再締結は原則不要です。ただし、一部の契約には経営権の変動を理由とした解除条項が含まれている場合があるため、事前に契約内容を確認することが重要です。

事業譲渡の場合
事業譲渡では、買い手は新たな開設者となるため、医療法上の開設許可と保険医療機関指定を新規に取得する必要があります。この申請には、開設者の資格要件、施設の構造設備、人員配置などが厳しく審査されます。特に、地域医療構想が推進される中で、病床の譲渡を伴う場合は、医療計画との整合性や病床機能の変更申請が求められることもあり、許可取得までの期間や難易度が増す可能性があります。また、診療報酬上の施設基準についても、新規開設と同様に再申請・再評価が必要となるため、M&A後の診療報酬の算定に影響が出る可能性があります。例えば、高度な施設基準を要する特定機能病院や地域医療支援病院などは、再取得に相当な時間とコストがかかる場合があります。従業員との雇用契約や取引先との契約も、買い手側で個別に締結し直すのが原則です。これは、買い手にとっては契約内容を見直す機会となりますが、売り手にとっては従業員の雇用維持や取引先の確保という点で課題となることがあります。

【チェックリスト】事業譲渡で特に注意すべき手続き

  • 医療法上の開設許可(新規)
  • 保険医療機関指定の申請(新規)
  • 診療報酬上の施設基準の再申請・再評価
  • 従業員の再雇用契約締結
  • 主要な取引先との契約再締結
  • 医療法人社団・財団の定款変更認可(一部事業譲渡の場合など)
  • 介護保険事業所指定の再申請(介護事業を併設している場合)

これらの手続きは、M&Aのスケジュールやリスクマネジメントに直結するため、事前に専門家と綿密な計画を立てることが不可欠です。

株式譲渡・事業譲渡の選択を左右する主要因

医療M&Aにおける株式譲渡(出資持分譲渡)と事業譲渡のどちらを選択するかは、売り手と買い手の双方の意向、対象となる医療機関の特性、そして外部環境など、複数の要因によって総合的に判断されるべきです。

1. 売り手の意向
売り手側は、主に譲渡益の最大化、手続きの簡素化、従業員の雇用維持などを重視します。税負担を抑えたい場合は株式譲渡が有利なケースが多いですが、簿外債務などのリスクを完全に切り離したい場合は事業譲渡を検討することになります。従業員の雇用を継続したい場合、株式譲渡の方がスムーズに進む傾向にあります。

2. 買い手の意向
買い手側は、リスクの回避、事業拡大戦略、効率的な経営統合などを重視します。簿外債務リスクを徹底的に排除したい場合は事業譲渡を選好します。また、特定の事業や資産のみを取得したい場合や、自社の経営戦略に合わせて新たな法人格で事業を立ち上げたい場合も事業譲渡が適しています。一方、既存の許認可や施設基準、ブランドをそのまま引き継ぎたい場合は株式譲渡が有力な選択肢となります。

3. 対象となる医療機関の類型
前述の通り、出資持分あり医療法人であれば出資持分譲渡が選択肢となりますが、出資持分なし医療法人や個人クリニックでは事業譲渡が主なスキームとなります。医療法人類型は、M&Aスキームを決定する上で最も基本的な要素の一つです。

4. 簿外債務・偶発債務の有無と程度
売り手医療機関に多額の簿外債務や偶発債務が存在する可能性が高い場合、買い手はリスク回避のため事業譲渡を強く希望することが一般的です。株式譲渡の場合、これらのリスクを法人ごと承継することになるため、デューデリジェンスの結果によっては譲渡価格に大きな影響を与えるか、スキーム自体が変更されることもあります。

5. 許認可・施設基準の承継の難易度
譲渡対象の医療機関が、特定の高度な施設基準や許認可を有している場合、事業譲渡による再取得は時間とコスト、そして不確実性を伴います。このようなケースでは、法人格が継続する株式譲渡の方が現実的な選択肢となることが多いです。特に地域医療構想の進展により、病床機能の変更などが絡む場合は、行政との事前調整が不可欠となります。

これらの要因を総合的に評価し、売り手と買い手の双方が納得できる最適なスキームを選択することが、M&Aを成功に導く鍵となります。具体的な数値レンジを提示する場合も、個別のケースにより大きく異なるため、あくまで目安として捉えるべきです。

【まとめ】スキーム選択の主要ポイント

  • 医療法人類型: 出資持分の有無が最重要。
  • リスク許容度: 簿外債務を避けたいか、法人ごと承継するか。
  • 手続きの複雑さ: 許認可再取得の手間や時間。
  • 税務上のメリット・デメリット: 売り手・買い手双方の税負担。
  • M&A後の事業戦略: 既存事業の継続か、新たな事業展開か。

医療M&Aは、一般的なM&Aとは異なる専門的な知識と経験が不可欠です。本稿で解説した株式譲渡と事業譲渡の選択は、貴院の状況や将来の展望によって最適な解が大きく異なります。M&Aメディカルでは、医療業界に精通した専門家が、貴院の状況を丁寧にヒアリングし、最適なM&Aスキームのご提案から実行までを一貫してサポートいたします。まずは、お気軽にご相談ください。


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