📖 約 7 分 / 2026.05.08 更新
クリニック売却・譲渡の増加とその背景
近年、クリニックの売却・譲渡、すなわち事業承継を目的としたM&Aが急速に増加しています。この背景には、開業医の高齢化、後継者不在、勤務医の独立志向の変化、さらには医療法人化による経営安定化や複数院展開への関心の高まりなど、複合的な要因が絡み合っています。多くの院長先生が、ご自身の健康問題や引退時期を考慮しつつ、長年培ってきた医療機関を閉院ではなく、スタッフや患者さんの受け入れ先を見つけて承継させる道を選択されています。M&Aメディカルには、こうした「閉院ではなく、誰かに引き継いでもらいたい」という切実な思いからご相談いただくケースが少なくありません。本記事では、クリニック売却・譲渡を検討されている医療法人理事長やクリニック院長、あるいは顧問先の支援を検討されている税理士・公認会計士の皆様に向けて、譲渡価格の相場、具体的な進め方、そして留意すべき注意点について、医療M&Aの専門家の視点から解説いたします。
クリニック譲渡価格の決まり方と相場観
クリニックの譲渡価格は、単一の要素で決まるものではなく、複数の要素が複雑に絡み合って決定されます。一般的に、譲渡価格は以下の3つの要素の合計として評価される傾向にあります。
譲渡価格の構成要素
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1. 純資産価値
医療機器、内装、設備、在庫、現預金などの時価評価額。負債(借入金等)は控除されます。 -
2. 営業権(のれん)
クリニックの収益力やブランド力、患者基盤、立地など、純資産だけでは測れない無形資産の価値。EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization:利払い前・税引き前・減価償却前・償却前利益)に一定の倍率(一般的に2~5倍程度)を乗じて算出されることが多いです。 -
3. 固有価値(プレミアム)
特定の診療科における希少性、地域での強いブランド力、特殊な医療設備、優秀なスタッフ構成、電子カルテシステムや予約システムなどのIT資産など、個別のクリニックが持つ独自の強みや将来性に対する付加価値。
これらの要素を総合的に評価するため、譲渡価格はクリニックの規模、診療科、立地、収益性、将来性などによって大きく変動します。以下に、M&Aメディカルが支援した実績に基づいた、主要診療科別の譲渡価格レンジの目安を示します。これはあくまで一般的な傾向であり、個別のクリニックの状況によって大きく異なることをご承知おきください。
| 診療科 | 年商目安 | 譲渡価格帯(目安) |
|---|---|---|
| 内科 | 1〜3億円 | 3,000万〜1.5億円 |
| 整形外科 | 1.5〜4億円 | 5,000万〜2億円 |
| 皮膚科 | 0.8〜2億円 | 2,000万〜1億円 |
| 眼科 | 1〜3億円 | 3,000万〜1.5億円 |
| 歯科 | 0.5〜2億円 | 1,500万〜8,000万円 |
| 美容医療(自由診療中心) | 0.5〜10億円 | 3,000万〜5億円以上 |
特に美容医療分野は自由診療の割合が高く、ブランド力やマーケティング戦略が価格に大きく影響するため、譲渡価格レンジが広がりやすい傾向にあります。また、医療法人で複数のクリニックを運営している場合、個別のクリニック単位ではなく、法人全体の売却や事業譲渡となることもあります。その場合、法人税の取扱いや、出資持分の評価、社員(出資者)の交代手続きなども複雑化します。
クリニック売却・譲渡の基本的な進め方
クリニックの売却・譲渡は、専門的な知識と経験が求められるプロセスです。一般的に、以下のステップで進行します。秘密保持契約(NDA)の締結から最終契約、そしてクロージングまで、短ければ数ヶ月、長ければ1年以上かかることもあります。各ステップで専門家(M&A仲介業者、弁護士、税理士など)のサポートが不可欠となります。
クリニック売却・譲渡のステップフロー
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1
相談・準備段階
M&A仲介業者への相談、売却意向の明確化、資料準備(財務諸表、診療実績、設備リストなど)。
📋 -
2
初期交渉・秘密保持契約
買収希望者との面談、クリニックの概要説明、秘密保持契約(NDA)の締結。
🔍 -
3
デューデリジェンス(DD)
買収希望者による詳細な調査(財務、法務、医療実務、許認可など)。
📝 -
4
基本合意・条件交渉
DD結果に基づき、譲渡価格、譲渡スキーム、引継ぎ条件などを最終調整。基本合意書(LOI)締結。
⚖️ -
5
最終契約締結
売買契約書(SPA)の締結。医療機関M&Aでは、診療報酬債権の譲渡、スタッフの雇用引継ぎ、患者情報の取扱なども契約に盛り込まれます。
✍️ -
6
クロージング・引継ぎ
契約に基づき、対価の支払い、資産・権利の移転、許認可の変更手続き、スタッフ・患者への通知などを行います。
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クリニック売却・譲渡における重要注意点
クリニックの売却・譲渡は、単なる事業の売買にとどまらず、医療機関としての特殊性を考慮する必要があります。特に以下の点には十分な注意が必要です。
1. 許認可・届出の引継ぎ
クリニックの開設許可、各種届出、保険医療機関指定などは、原則として譲渡側(現院長)から譲受側(新院長)への引き継ぎが必要です。これには、厚生局や保健所への手続きが伴います。特に、診療報酬債権の譲渡や、施設基準の適合性なども、買収希望者にとって重要な検討事項となります。買収希望者がこれらの許認可をスムーズに取得できるか、あるいは譲渡側が円滑な引き継ぎをサポートできるかが、M&Aの成否を左右することもあります。
2. スタッフ・患者への対応
「スタッフや患者さんに知られずに進めたい」というご要望は非常に多いですが、完全な秘密保持は困難な場合が多いです。M&Aのプロセスが進み、最終契約が近づくにつれて、関係者への説明が必要になります。説明のタイミングや内容によっては、スタッフの離職や患者さんの不安を招く可能性があります。そのため、M&A仲介業者や専門家と連携し、段階的かつ丁寧なコミュニケーション計画を立てることが重要です。例えば、スタッフにはM&A成立後に、患者さんには診療継続の安心感を与える形で、といった配慮が求められます。
3. 医療法人と個人開業医の違い
個人開業医のクリニック売却と、医療法人の売却では、手続きや税務上の取扱いが大きく異なります。
個人開業医 vs 医療法人:売却時の主な違い
| 項目 | 個人開業医 | 医療法人 |
|---|---|---|
| 譲渡対象 | 事業(クリニック設備、患者リスト、営業権など) | 法人自体(出資持分譲渡)または事業譲渡 |
| 税務 | 譲渡所得課税(分離課税) | 出資持分評価額に対する譲渡所得課税、または法人税・消費税 |
| 手続き | 比較的シンプル | 社員総会決議、社員交代手続き、基金拠出・返還など複雑 |
| 許認可 | 開設許可、保険指定などの変更 | 法人の変更登記、社員・役員変更、許認可の引継ぎ |
医療法人の場合、社員(出資者)の交代や、基金(返還義務のあるもの)の取扱いは、特に慎重な検討が必要です。また、事業承継税制の適用可否なども、税理士・公認会計士と連携して確認する必要があります。医療法人化のメリットを享受してきたオーナー様が、将来的な法人税負担や運営の複雑さを考慮し、最終的に事業譲渡を選択するケースも少なくありません。
4. 譲渡所得課税と税務戦略
クリニックの売却によって得られる譲渡所得には、原則として譲渡所得税が課税されます。個人開業医の場合、事業用資産の譲渡として、通常の所得とは別に分離課税が適用されます。税率は、所有期間などによって変動しますが、一般的に約20%(所得税・住民税・復興特別所得税込み)となります。医療法人の出資持分を譲渡した場合も、原則として譲渡所得として課税されます。ただし、相続税・贈与税の計算とは異なり、医療法人の場合、譲渡価額の算定が複雑になることもあります。
M&Aのスキーム(事業譲渡か、株式譲渡か、持分譲渡かなど)によって税務上の影響が大きく変わるため、早い段階から税理士と連携し、節税対策を含めた最適な税務戦略を検討することが極めて重要です。例えば、小規模企業共済等掛金控除や、中小企業経営承継円滑化法の特例(経営承継円滑化法)の活用なども視野に入れることができます。
5. 診療報酬改定や施設基準の影響
医療機関の収益は、診療報酬改定の影響を直接受けます。直近の改定内容や、将来的な改定の方向性を把握しておくことは、クリニックの価値評価や買収希望者との交渉において不可欠です。また、各診療科が満たすべき施設基準や、高度な医療機器の導入状況なども、クリニックの競争力や評価に影響します。買収希望者が、これらの基準を維持・向上させられるかどうかも、M&Aの判断材料となります。
まとめ:専門家と共に進めるクリニック承継
クリニックの売却・譲渡は、院長の長年の功績を次の世代へと繋ぐ、非常に意義深い選択肢です。しかし、そのプロセスは複雑であり、医療機関特有の論点を多数含みます。譲渡価格の算定、適切な買収希望者の選定、法務・税務面のクリア、そして関係者への配慮など、専門的な知識と経験が不可欠です。M&Aメディカルでは、医療業界に精通した専門家チームが、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適なM&A戦略をご提案し、円滑な事業承継をサポートいたします。まずは、お気軽にご相談ください。
医療承継のご相談はM&Aメディカルへ
M&Aメディカルは、医療機関専門のM&A・事業承継支援サービスです。中小企業庁認定M&A支援機関として、後継者不足に悩むクリニックや医療法人の譲渡から、戦略的譲受までを成功報酬制で支援いたします。
- 初回相談・簡易査定は無料
- 着手金・月額費用は0円(成功報酬のみ)
- 秘密厳守(NDA締結のうえ進行)
- 全国47都道府県・全診療科に対応
「相場感だけ知りたい」「後継者がいない」「グループ参画を検討したい」など、検討初期の段階こそお早めにご相談ください。